
やはり、私が欲しているのは恋愛ではなく、今の孤独を和らげる彼女の身体だけなんだと、改めて思った。
あの夜のあと。
彼女は帰り際、幸せそうに手をふって微笑んでくれた。
満たされたというより、二人の関係が深まった事で、どこか安心したような表情だった。
私は、それを見ながら、笑顔を保ちながらも彼女に気づかれないように少しだけ目を逸らした。
感情の不一致が生じたとき、人は目線を逸らす事で距離を保とうとするもの。
あのときの私は、まさにそれに近かったのかも知れない。
彼女は私に恋をしている。
私は彼女の身体を求めている。
この不均衡を、はっきり自覚している。
同時に、その違和感を意識の奥に押し込めようとしている自分もいる。
後になって、これは確実に抑圧となるのだろう。
一年後、彼女を傷つける事になる。
自分の心も苦しむ事になる。
でも、今はそれを問題として扱う気にはなれない。
だって、今は何よりも、孤独の癒しがほしいから。
私の方から彼女に連絡をした。
特別な用事はない。
ただ、ひとりの静けさが長く感じられて淋しかったから。
さらに、そこに孤独の痛みが、重く重なっていた。
人は孤独を感じたとき、身体的な接触が精神の安定に作用する事は、心理学の理論として知っている。
ぬくもりと温度は、思考よりも先に安心をつくる事も。
私は、その仕組みを理解したまま、彼女を思い出していた。
ただ、彼女のぬくもりと温度が欲しかった。
彼女の返事は早かった。
「逢える?」
とてもシンプルだった。
でも、そこに含まれている気持ちは十分に伝わってきた。
私も短く返した。
「うん…逢いたい」
少しだけ間を置いてスマホを閉じた。
私は彼女の顔に惹かれていない。
それでも、彼女に逢おうとしている。
理由は、もう分かっていた。
それは、彼女の身体のぬくもりと柔らかさ。
あの夜に味わった、彼女の胸の中に包まれたときの温度。
私は、自分の孤独を和らげるために、彼女の身体を求めている。
それが良くない事だと分かっている。
これは倫理的な問題というより、関係の非対称性を自覚しているから。
彼女は私に恋愛を差し出している。
私は彼女の身体を求めている。
この交換は、均衡を欠いている。
それでも、その考えは消えてくれない。
むしろ私は、罪の意識と同じ重さで、彼女の身体に触れる瞬間の感触を思い浮かべている。
罪悪感と同じ場所に、快楽の期待が同居している。
彼女の胸に顔をうずめたとき、頬に伝わってくる、あたたかい体温と柔らかい感触が、まだ身体の奥に残っている。
それを思い出すたび、罪悪感よりも先に、欲望が立ち上がる。
それは感情というより、身体記憶に近いもの。
彼女は私を好きでいてくれる。
その気持ちを利用して、私は彼女の身体を味わって、自分の欲望を満たそうとしている。
よくない事。
そんな事は分かっている。
でも、理解している事と、止められる事は違うんだ。
いや、むしろ、理解しているからこそ、この矛盾はよりはっきりしている。
このままだと、確実に一年後、彼女も私も傷つく。
それでも、魔が刺して…彼女の身体から抜けてくれない。
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